どのプロジェクトにもリスクとなる要素はつきものです。特にプロジェクトが複雑化し、部署横断的なチーム、責任者、ステークホルダーが関与するようになればなおさらです。 プロジェクトマネージャーは効果的なリスク対応戦略を策定し、想定されるリスクに対処し、予期せぬ結果に備える必要があります。
この記事では、プラスとマイナスのリスク対応戦略を活用したリスク対応プランの策定方法を説明します。 4つの主要なリスク対応カテゴリごとに、新たなプロジェクトのための、安心できるリスク対応プランの作成に役立つ例を共有します。
リスク対応戦略とは何か?
リスク対応戦略はプロジェクトプランの根幹をなす主要要素です。 リスク発生時にプロジェクトを制御し、進捗の維持を可能とする戦略を定めています。
リスク対応戦略の策定を開始するにあたっては、プロジェクトごとに起こり得るリスクを特定し定量化します。 リスクの発生確率とそのリスクがプロジェクトに与える影響を算出します。 そうすることで、起こり得るリスクの深刻度を把握し、対処可能なものと回避すべきものとを判断します。
策定したリスク対応プランは様々な面でプロジェクトに影響を及ぼす可能性があります。次に幾つかの例を挙げます。
- 特定のタスクや成果物の変更によるプロジェクトスコープの改訂が必要となる
- 特定されたリスクへの対処に必要な新たな活動に基づき、プロジェクトのスケジュールを変更することが必要となる
- 特定のリスク領域への対処に専門家や専門的サービスを提供する企業の導入が必要となる
- プロジェクトに新しいワークフローとプロセスが導入される
以上を踏まえると、プロジェクトプランとリスク対応プランはプロジェクトの計画策定の開始にあたって、同時に策定することが賢明といえます。 リスク対応戦略を別のタスクとして分けて処理してしまうと、無駄なプランの作成や土壇場の変更につながるおそれがあります。
プロジェクトにリスク対応プランが必要な理由とは?
プロジェクト管理にリスク戦略が必要な理由は主に2つあります。 第一は、予測可能なプロジェクトリスクを特定し軽減するためです。 プロジェクトマネージャーはリスク対応プランを利用して、想定される脅威や不確定要素を予測し取り除くことが可能となります。
第二は、プロジェクトスコープ内でチャンスを発見するためです。 プロジェクトマネージャーはリスク対応プランを利用して、リスクやプロジェクトの制限に対処する様々な手立てを考案することで、プロジェクトを進めるための新しいアプローチを見い出すことが可能となります。
リスク対応プランは、取る価値があると考えられる大きなリターンのあるリスクを、プロジェクトマネージャーが特定し追求する助けとなります。
4つのリスク対応カテゴリとは何か?
策定する戦略は主に4つのリスク対応カテゴリに分類できます。 このカテゴリは、担当するプロジェクトにおいて遭遇する可能性のあるリスクの種類や、チームや組織内でのリスク選好など、いくつかの要因によって使用が決定されます。
リスク対応戦略は時間が経過するなかで変更が可能なことに注意してください。特にプロジェクト要件の変更・追加や、新しいマネージャーやプロジェクトオーナーの参加がある場合はその機会となります。 最初に選択したカテゴリがプロジェクトに合わなくなった場合には、新しいリスク対応カテゴリに切り替えるようにします。
主要な4つのリスク対応カテゴリ
回避
この戦略では、リスクを完全に回避することを目的とします。 つまり、脅威が大きすぎるためにプロジェクトの開始を取りやめたり、附随する厄介な問題を避けるために特定のタスクをプロジェクトから外したりします。
このリスク対応戦略では、特定されたリスクがプロジェクトの脅威となる確率がゼロとなるようにします。 そのため、これは、従業員の傷害や、コストに対してほぼ利益が出ない結果となる法的問題に、会社が巻き込まれる可能性のあるリスクに対して定番となる確実な戦略です。
リスク回避はマイナスのリスク対応戦略の1つとみなされます。 この戦略は常に推奨されるべきものではありません。特に、リスクを取ることがチームやプロジェクトにとって大きな利益につながる可能性がある場合には妥当とはいえません。 そのため、プロジェクトマネージャーはリスクを丸ごと回避する前に、リスクのあらゆる面を調査し、慎重に検討する必要があります。 潜在的リスクの深刻度の判断には、リスクアセスメントマトリックスをご活用ください。
転嫁
このリスク対応プランはプロジェクトのリスクを軽減したり取り除いたりするものではありません。 代わりに、リスクの責任を第三者に移転します。
代表的な例として、事業保険への加入が挙げられます。 保険プランへの加入はプロジェクト、会社、施設などに損害を与える可能性のあるリスクを取り除くものではありません。 しかし、保険会社は問題が発生した場合に、その問題に関わるリスクを引き受けてくれます。
転嫁のリスク対応カテゴリは、認定されたリスクが発生した場合に、プロジェクトや企業を比較的ダメージのない状態とすることを目指します。
残念ながら、転嫁戦略を取れるのは特定の種類のリスクに対してのみです。 企業のブランド、評判、人材に関連するリスクは転嫁することができません。 しかも、このリスク対応戦略は特定の出来事の発生後にしか効力を発揮しません。
軽減
このカテゴリでは、プロジェクトに固有のリスクを低減する解決策に資金やリソースを投資することが行われます。 これに特に当てはまる事例は、国際的なプロジェクトに携わる企業でみられます。
たとえば、為替レートの変動は、企業が当初の想定を超える人件費や材料費を支出することになる原因となり得ます。 企業は通貨ベースの不確実性によって受ける影響を抑えるために、為替レートの保証に資金を投じる場合があります。
軽減のリスク対応戦略には、プロジェクトに固有のリスクを低減するためのあらゆる活動が含まれます。 技術計画やプロジェクト提案の詳細な調査のために外部の専門機関と契約することは軽減の一形態です。 リスクの高いタスクを、そのようなタスクの遂行に実績のあるベンダーや専門家に委託することも同様です。
リスク軽減は、プロジェクトからリスクを完全に取り除きはしませんが、リスクの発生確率を低下させます。
受容
全リスク対応カテゴリの中で、これは最も労力を必要としない戦略です。 リスクについて、発生確率が低い、または発生したとしても極めて小さな影響しか与えないと判断する場合があります。
このような場合、このリスクはプロジェクトの許容範囲として問題ないと判断されます。 また、そのリスクの影響と比較して、リスクに対処するためのコストが高すぎると考えられる場合もあります。
この場合、リスクを受容し、何もしないことを選択できます。 これは常に受け身のアプローチであるとは限りません。 たとえば、リスクを受容し、それを共有する方策を模索することもできます。他の企業との提携もあり得るかもしれません。
プラスのリスク対応戦略とマイナスのリスク対応戦略
リスク対応カテゴリを大まかにプラスとマイナスのリスク対応戦略に分けることができます。
マイナスのリスク対応戦略とは、リスクに直接立ち向かわずにすむようにするものです。 たとえば、回避の戦略はリスクに対して何も試みようとはしないので、マイナスの対応です。 これは、戦略の誤りを意味するわけではありません。 リスクの深刻度が非常に高い場合、それを回避するのは賢明なことです。 ただし、常に回避アプローチをとることは、学習や成長、さらにはプロジェクト強化の機会を逃すことになりかねません。
受容アプローチもまた、マイナスの対応と考えられます。特に、リスクを手に負えないとただ投げ出して、まったく考慮しない場合はそうです。 しかし、そのようなことはめったにありません。 リスクを受容するチームやマネージャーのほとんどは、選択肢を検討したうえで、リスクの深刻度が高くない、またはプロジェクトを損なうほどの影響はないと判断して、受容を選択します。
プラスのリスク対応戦略ではリスクへの対処に重点を置いて、より積極的な関与を行います。 軽減のリスク対応プランはプラスのリスク戦略です。リスクの影響を低下させ、プロジェクトを継続させることを目的としているからです。
転嫁のリスク対応戦略についても同様です。そのプロセスでより多くの機会を創出しながら、プロジェクトとチームのリスクを取り除くものだからです。
この機会の創出に重点を置くことが、プラスのリスク対応戦略の基盤です。 プラスのアプローチには、他に次のようなものがあります。
- リスクから利益を引き出す方策を模索する(予定より早くプロジェクトを完了させる方法を得るなど)
- 計画的にリスクを取って、プロジェクトを強化する(割引価格で入手できるよう、プロジェクト開始前に機器を購入するなど)
- 有益な業界関係を構築し、リソースを共有し、提携先の専門性の恩恵を得ることを可能にしつつ、想定されるリスクの分散を目的とした提携関係を結ぶ
2つの対応戦略を表現するのに、「プラス」と「マイナス」という言葉を使っていますが、リスク対応戦略の策定には、唯一の正解というものはありません。
選択するアプローチは、対象のプロジェクト、自社のリスク選好、特定した実際の各リスクによって決める必要があります。 場合によっては、プラスとマイナスのアプローチを組み合わせながら、いつの間にか包括的なリスク対応プランを策定していたということもあり得ます。
リスク対応プランの例
検討の際に役立つリスク対応プランの例は数多くあります。 以下に4つの例 — 各リスク対応カテゴリごとに1つ — を紹介しています。リスク対応戦略が実際にどのように展開されるかをご覧ください。
リスク対応プランの例:プロジェクトのスコープクリープを回避する
スコープが不明確なプロジェクトを開始することを想像してみてください。 プロジェクト要件が膨れ上がるごとにリスクは増大し、スコープは拡大し続けます。 プロジェクトに当てることのできる時間、人員、予算はすぐにも限界に達してしまいます。
リスクを書き出し、プロジェクトオーナーかシニアマネージャーに、プロジェクトスコープにこれ以上追加するなら、プロジェクトは失敗しかねないと告げることを決断するのは今しかありません。 このようにして、回避のリスク対応戦略を選択した後は、必要が生じるまで何も行動を起こしません。 プロジェクトスコープが組織の力を超えてしまう、失敗につながる状況にならないようにするためにのみ、積極的対応に舵を切ったのです。
リスク対応プランの例:アウトソーシングを活用した転嫁
実店舗の小売店を経営しているとしましょう。 ある日、製品の販売を拡大するために、eコマース用のウェブサイトを開設することを決断します。 オンラインショップの構築方法や運営方法がわからなかったので、ITベースのリスクアセスメントを実施し、ウェブサイトの構築方法に詳しい企業にこの業務を外部委託するのが最も賢明な選択であると判断します。 こうすることで、ウェブサイトを構築し維持するというリスクを経験豊富な適切な企業に転嫁します。
リスク対応プランの例:教育による軽減
従業員やチームメンバーがプロジェクト内の担当業務でミスをしてしまう可能性のリスクは常にあります。 このリスクを完全になくすことはできませんが、継続的な教育とトレーニングによって、このリスクを減らすことは可能です。 リスク対応戦略として、自社で従業員用ハンドブックの作成や講習会を行い、ヒューマンエラーを最小限にすることができます。
リスク対応プランの例:機械のコスト負担の受容
このシナリオでは、チームはプロジェクトを成功させるのに必要な、高価な機械を保有しているとします。 コストの高さ、または目的にぴったりなプランがないことから、機械保険には加入しないことにし、機械が故障する可能性と、その場合に保険がないというリスクをそのまま受容します。
通常、このアプローチを取るのは、次善策として機械の作業を人手に置き換えることが可能な場合のみです。そうでなければ、機械が故障した場合に、ボトルネックで停滞してしまう事態になりかねません。
プロジェクト管理におけるリスク戦略の策定・実践方法
前項では、参考にできるプロジェクト管理の様々なリスク戦略の例を取り上げました。 ただし、リスク対応戦略を策定する前に、その効果的な実践方法を理解しておく必要があります。
次に、リスク対応プランを策定・実践する際に踏むべき重要なステップを挙げます。
- プロジェクトに影響を与える可能性のあるすべてのリスクを特定するリスク分析の実施に時間を当てる。 そのリスクを深刻度に基づいて分類し、自身とチームにとって最優先で対応すべきリスクを浮き彫りにする。
- チームとプロジェクト関係者のほか、特に重要な外部コラボレーターとも協力して、特定したリスクに対して取るべき対応カテゴリを決定する。 リスク登録簿の各リスクへの対処に当てることのできる時間とリソースの概要をまとめる。
- リスク対応戦略について、チーム、コラボレーター、プロジェクト関係者に伝える。 プロジェクトの計画策定と実施に移る前に、関係する個人や組織から承認を得る。
- リスク対応プランを見直し、最初の作業で何か見落としたリスクがないかを確認する。 これまでの作業ステップをさかのぼり、経験豊富なマネジメントに意見を求めて、必要な点をすべて網羅していることを確認する。さらにプロジェクト期間中、定期的なリスク分析を実施し、他のリスクの特定を継続する。
Wrikeでリスク対応プランをさらに効果的なものとする
最強のリスク対応戦略を策定する鍵は、直面するリスクに対してバランスの取れたアプローチを取ることです。 リスクの深刻度を規定し、すぐにも起こり得る問題に最適なリスク対応カテゴリを選択します。
潜在リスクに対する最適な対応策が決定したら、次にすべきことは、それをチームメンバー、コラボレーター、プロジェクト関係者に伝えることです。 プロジェクト全体を予定のスケジュールに沿って進めながら、各自に適切なノウハウと権限を与えて、その責任の範囲内のリスクを克服できるようにするといいでしょう。
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